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Pick up Thee Trio 隅野 由征

FASHION CROSS OVER

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秋田の公民館で行われたCaravan Shop

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エイチエムピー・シアターカンパニー「リチャード三世」

(撮影:中谷利明)

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◇  町づくりとファッション

 みなさんはどこで服を買うだろうか。お気に入りのセレクトショップ、国道沿いの量販店、デパート、あるいはネットショップ。服を買うという体験はいろいろあって、それぞれのライフスタイルにあわせてファッションを楽しんでいる。「Thee Trio」の隅野由征さんは私たちに少し変わったファッション体験を提供している。
 彼の作る服は美しい。
 それはひとりひとりのライフスタイルはもちろんそのひとの個性にあわせたファッションを提案しているからだ。こう書くと多くの店に共通した理念のように聞こえるが、その表現方法がとても面白い。
「Thee Trio」のアイテムはもちろん隅野さんがデザインをし、販売しているのだが、お客様に手渡すまでの過程すべてにおいて、隅野さんの「ひとへの想い」があふれている。制作をすべてまかせるのではなく、ボタン付けなど最後の仕上げは隅野さん自身の手で行い、お客様が一番きれいにみえるシルエットになるようスタイリングをして販売する。
 一度彼がゲスト出演したイベントに参加したことがある。そのときファッションに疎い人が「Thee Trio」の服を着た途端、まるでその人のためにあつらえたように見えたのには驚いた。
「手渡しの文化を大切にしたいんです」

 異業種とのアートプロジェクト。劇団の舞台衣装を担当したり、彼のやっていること、目指していることはあまりに多岐にわたっていて、この誌面ですべて語りつくすことは出来ないが、そのなかのひとつ「Caravan Shop project」を紹介しようと思う。それは彼の本質のひとつだと思うからだ。
 彼は全国を飛び回っている。日本全国十五都市を季節ごとに年四十回、キャラバンショップを開催している。それは百貨店などではない。会社の事務所。公民館。スナック。リノベーションした古民家。専門学校の教室。お茶屋の蔵。およそブランドの展示販売には似つかわしくない。だがそこは先のイベントで見た本人ためにしつらえたかのように思えるのと同じように、その地域・地場にあった特別な空間になっている。
 地域の人も、彼を自分たちの仲間のひとりであるかのように歓迎している。まるで親戚のお兄さんが帰ってくるみたいに。
「普段見えてないものが、外からみるとその土地の良さみたいなものが見えてくる。それを尊重したいんです。オシャレはみんなのものですし、ファッションに臆病なひとでも気軽に体験できるように自分からよっていこうと思って」

 隅野さんは神戸の下町の商店街で少年時代を過ごした。いろいろなお店があって、そこにコミュニティがあった。人と人との濃密な人間関係があった。それは「手渡しの文化」だ。
 彼はただ全国で自分の服を売っているのではない。おそらくこの少年時代の体験が強烈に影響しているのだろう。人と人とつながりは向こう三軒両隣。彼はきっと行く先々で向こう三軒両隣を作っているのだろう。今、令和の時代にあったやり方で。


THE TANPENS VOL.31より

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